東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)178号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許願書)中の図面第4図、第四号証(本願発明の昭和五九年一〇月一日付け手続補正書)中の図面第1図・第3図及び第五号証(本願発明の昭和六〇年二月一五日付け手続補正書。第2図を含む。)によると、本願発明について以下の事実が認められる。
(1) (目的等について)
本願発明は、「パチンコ店において個々に機器類の集中管理を行うとともに複数のパチンコ店を統括的に総合管理するようにしたパチンコ店の集中管理方式に関するものであ」(本願補正明細書の発明の詳細な説明の項第二頁第一一行ないし第一四行)り、「一定の系列にあるパチンコ店を各パチンコ店が店内の機器類を個々で管理できるようにするとともに中央処理装置により一括的に総合管理できるようにして各パチンコ店の人件費を削減するとともに、各パチンコ店における経営情報を遠隔的に且つ迅速に収集管理してパチンコ店経営の円滑化を促進する」ことを目的とし(同第三頁第二行ないし第九行)、その要旨とする構成を採用したものである。
(2) (各店の制御、管理について)
各パチンコ店11,2…のデータ制御処理装置7(同第五頁第四行)には第3図(本判決別紙図面(1)第3図)に示すように、各パチンコ機5からアウト玉数信号13、セーフ玉数信号14が伝送される。セーフ玉数信号14は乗算器15でセーフごとに排出される賞球数信号16と乗算され、この乗算値は賞球数信号17としてデータ制御装置7に記憶される。アウト玉数信号13は減算器18に供給され、ここでアウト玉数―賞球数の演算が行われ、この演算結果は損益数信号19としてデータ制御装置7に記憶される。また、アウト玉数信号13とセーフ玉数信号14とは加算器20に供給され、両玉数の演算が行われ、この演算結果はプレー数信号21としてデータ制御装置7に記憶される。さらに、データ制御装置7には、玉貸器22から供給される貸玉数信号23及びコイン数信号24並びに店の湿度、温度、客の入店量あるいはいかなる種数の商品が何個景品としてもたらされたかを意味する環境情報25が記憶される。「したがつてデータ制御処理装置7はパチンコ機等の機器類の検出部から発信される諸データを収集して演算、記憶等管理に必要な処理を行なう。」(同第五頁第四行ないし第七頁第一行)。
また、「データ制御処理装置7からはパチンコ機5に対してパチンコ玉の不足分の補給指令を行なう信号26が図示しない補給装置に送出され、この補給装置よりパチンコ機5には予定する量のパチンコ玉が補給されるなど、データ制御処理装置7によつて当該パチンコ機を集中的に制御してパチンコ店の管理を行なう。」(同第七頁第二行ないし第八行)ものであり、データ制御処理装置7から発せられる補給玉数信号26は、中央コンピユータ10によつて演算された自動補給信号28が変調、伝送、復調されてデータ制御処理装置7に供給されたものに基づくものである(同第八頁第四行ないし第一九行)。データ制御処理装置7は、乗算器15、賞球数信号16、17、減算器18、損益数信号19、加算器20、プレー数信号21等を組み込んだ管理装置であつてもよい(同第一一頁第四行ないし第七行)。
さらに、データ制御処理装置7は、収集されたデータのうち、中央処理装置3で管理に必要な情報を中央処理装置3に送り出す作用をも果たすものである(同第七頁第九行ないし第一七行)。
したがつて、各パチンコ店においては、当該店内の諸データをデータ制御処理装置7により収集して演算、記憶等管理に必要な処理を行い、このデータに基づいて店内の機器類を集中的に制御してパチンコ店の管理をすることができ、その店の責任者が、立地条件、客層、曜日等の諸条件を考慮してその店に適した営業を行う(同第九頁第二〇行ないし第一〇頁第九行)ことができる。
(3) (全店の制御、管理について)
各パチンコ店11,2…は、中央処理装置3に情報を送り出し、中央処理装置3の指令に基づいてパチンコ遊技上の管理がなされる(同第三頁第一一行ないし第一八行)。
中央処理装置3は、通信制御装置9、中央コンピユータ10、デイスプレー装置11等を具備する(同第四頁第一一行ないし第一三行)。
中央コンピユータ10で処理された記憶情報手段が、デイスプレー装置11、印字機等で出力されるので、各パチンコ店の情報を知ることができ(同第四頁第一八行ないし第五頁第三行、第七頁第一六行ないし第八頁第三行)、デイスプレー表示に基づいて中央コンピユータ10のプログラム12を変更できる(同第四頁第一八行ないし第五頁第三行)。
中央コンピユータ10は、入力された信号に基づき、プログラムによつて、各店の商品の総合的仕入情報27、自動玉補給信号28の情報を演算処理し(同第八頁第四行ないし第一二行)、損益更正信号29、打止設定信号30の管理指令信号を発する(同第八頁第一九行ないし第九頁第一七行)。また、中央コンピユータ10は、各店の湿度、温度についての環境に関する管理指令信号を発することができる(同第九頁第一七行ないし第一九行)。
(4) (データ制御処理装置7と中央処理装置3との間で通信回線を介して伝送される情報について)
損益数信号19、プレー数信号21、賞球数信号17、貸玉数信号23、コイン数信号24、環境情報25などのデータ制御処理装置7によつて収集されるデータのうち、中央処理装置3で管理に必要な情報が送り出される(同第七頁第九行ないし第八頁第三行)。
中央処理装置3は、いかなる店のパチンコ機5で何個のパチンコ玉が不足するかを演算して、このパチンコ機5の玉を一定量に満たすべく、自動玉補給信号28を発し、データ制御処理装置7に送り出し(同第八頁第四行ないし第一七行)、また、中央処理装置3から発せられた損益更正信号29、打止設定信号30の管理指令信号により、各店のパチンコ機5が制御若しくは管理される(同第八頁第一九行ないし第九頁第一七行)。さらに、中央処理装置3は、各店の湿度、温度を一定に設定すべき信号を発し、各店を総合的に管理する(同第九頁第一七行ないし第一九行)。
2 原告は、審決は、本願発明と第一引用例記載の発明は、「処理したデータに基づいて店内の機器類を集中的に制御してパチンコ店の管理を行う点で一致し、」と認定したが、第一引用例にはこの点に関する記載がないので、審決の一致点の認定は誤りであると主張する。
審決が認定した第一引用例記載の事項については原告も認めているところ、成立に争いのない甲第六号証(第一引用例)によると、第一引用例記載の発明の特許請求の範囲は、「計数記憶回路に演算回路を並設し、且該計数記憶回路にはパルス波形整列回路を接続し、複数個の入賞球パルスは上記波形整列回路を通して計数記憶回路に、各パチンコ機台のアウト玉パルス、及び景品玉パルス、貸し玉パルスは直接上記計数記憶回路に送り(「り送り」とあるのは、「に送り」の誤記と認める。)、該計数記憶回路内で入賞球数、アウト玉数、貸し玉数、景品玉数の計数を行い、これに接続する演算回路内で店内の利益率を計数するようにしたことを特徴とするパチンコ遊戯店におけるパチンコ機台の集中管理機構。」というものであることが認められる。
また、右甲第六号証によると、第一引用例の明細書の項の発明の詳細な説明第三頁右下欄第二行ないし第九行に、「ここで店内のパチンコ機の運転状況、店内の営業状況を監視するようにすれば、店内のコントロールを適格に行なうことができるのである。更に、本願は入賞球による賞球数が複数種あるパチンコ機台について集中管理ができるので、各種の機台を備えたパチンコ遊戯店の集中管理も可能である。」と記載されていることが認められる。
そして、パチンコ店にコンピユータが導入され、玉を自動補給することや、選択された打止め数に達するとパチンコ機を自動打止めすることなどにつき、コンピユータを用いての自動的な制御の管理が広く行われていることは、本件出願前において技術常識であつたというべきである。
第一引用例のこれらの記載、及び右にみた技術常識に属する事項を総合すると、第一引用例記載の発明においては、演算回路内で、入賞球数、アウト玉数、貸し玉数、景品玉数の情報を演算する計算機能を有していることと併せて、計算機能を用いて、玉の補給や打止めなどのパチンコ機等の制御を自動的に行つていることをも当然に読み取ることができる。
したがつて、審決の前記認定には誤りはない。
3 (1) 原告は、審決が本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点について判断するに当たり、「企業における経営管理の方法としては、末端の各人・各部署を中央で一括して集中管理する方法(仮に一括集中方式と称する。)と、末端の各人・各部署を個々の中間部署でまず集中管理し、それらの中間部署を更に中央で管理する方法(仮に分割集中方式と称する。)とがあり、そのいずれを採るかは、企業の規模と種類、管理能力の大きさ等で決められるものであることもよく知られている。」とした認定は誤りであると主張する。
しかしながらまず、成立に争いのない乙第一号証(「データ伝送と処理」昭和四〇年一〇月三〇日、日刊工業新聞社発行、第一頁ないし第五頁)によると、同書の第三頁末行ないし第四頁第四行に、「端末データをデータ伝送システムで中央に流し、ここで収集分析し判断したデータを命令として、ふたたび端末へフイードバツクする中央集権方式と、各部門で個々に集計しさらに中央で総合的に判断する分権方式とがある。要は企業の規模と種類、データ量および計算機の処理能力とでいずれを取るかが決定される。」と記載され、同第四頁表1・1には、全面集中方式と分散集中方式の比較について記載されていることが認められる。
また、成立に争いのない乙第二号証(「生産ハンドブツク」一九七二年二月二〇日、森北出版株式会社発行、第四一〇頁ないし第四一三頁)によると、同書第四一一頁ないし第四一二頁の「(b)本社・工場間の集中管理と分散管理」の項の冒頭に、「一般に大企業の組織は本社組織といくつかの工場事業場の組織とに分かれている。したがつて、購買・倉庫の集中管理・分散管理ということは、現実的には、本社集中管理を主体とした一部工場分散管理と、現品管理について、工場分散を主体とした本社集中管理ということになろう。」と記載されていることが認められる。
そして、成立に争いのない乙第三号証(「電子計算機ハンドブツク」昭和四一年五月二五日、株式会社オーム社発行、第三―三〇頁ないし第三―三三頁)によると、同書の第三―三三頁の第2・1・5図には、計算機を用いる機器群を制御する形態の一つである集中―分散制御として、複数の機器Dを制御する制御装置CUの群を、更に一つの制御装置CUで制御することが図示((b)図)されていることが認められる。
以上認定の記載によると、審決説示の「一括集中方式」及び「分割集中方式」が、企業における経営管理の方法として存在し、その選択規準も、審決認定のとおりであることが、本件出願前一般に知られていたものということができ、審決がした前記認定には、何らの誤りも存しないというべきである。
(2) 原告は、審決が前記相違点について判断するに当たり、「散在する遠隔点と通信回線を介して中央計算機とがデータ情報の伝達をすることが、第二引用例にみられるように知られていることでもあり、パチンコ業界においても、他の企業と同様に、その企業規模、管理能力の大きさ等に応じて上記の管理方式を採用し、また、技術的に構成することに格別の障害が存するものとも認められない。」とした認定、判断は誤りであると主張する。
本願発明と第一引用例記載の発明との間の相違点について、審決が、「上記の相違点は、結局のところ、本願発明が、複数のパチンコ店のデータ制御処理装置を更に通信回線を介して個々に中央コンピユータに連絡して、情報の収集・処理をし、各パチンコ店を統括的に総合管理する点によるところと認められる。」と要約し、また、審決が第二引用例について認定した記載事項(これについては原告も認めているところである。)を併せてみると、審決が第二引用例を公知の刊行物として引用したのは、単に、遠隔地にある端末(本願発明のデータ制御処理装置)と中央コンピユータとの間のデータのやりとりについて、通信回線を介して行う技術事項を認定するためであつたことはいうまでもない。
審決の前記認定、判断についての誤りをいう原告の主張は、第一引用例記載の発明の技術事項と、第二引用例記載の発明における、前記通信回線を介するとの点以外の技術事項との組み合わせの困難性を述べるものであり、この主張は、審決が説示していないところについて審決を論難するにすぎず、もとより採用すべき限りではない。そして、審決のいわゆる「分割集中方式」が周知の技術手段であつたことについては、さきに判示したとおりであつて、他に、審決の前記趣旨の認定、判断が誤りであることを根拠付ける事実については何ら主張されていない。(なお、遠隔地にある端末から、中央コンピユータにおいて必要とする情報が伝送されることは、データ処理上、当然自明の事項にすぎない。)
4 原告は、本願発明は、第一引用例記載の発明及び第二引用例記載の発明からは予測できない顕著な作用効果を奏すると主張する。しかし、原告主張の本願発明の作用効果は、段階的なデータの処理を行ういわゆる「分割集中方式」の集中管理方式が本来的に奏する作用効果にすぎないものというべきであつて、本願発明に固有の格別なものということはできない。
5 以上みてきたところによると、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、本願発明の進歩性を否定した審決の認定、判断に誤りはない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
パチンコ店内に設置された複数のパチンコ機及び玉貸器等の機械類に設けた検出部と、当該パチンコ店内の上記機器類を遠隔的に管理するデータ制御処理装置とを電気的に接続し、当該複数のパチンコ店の上記データ制御処理装置を通信回線により中央処理装置に個々に連絡して、各パチンコ店のデータ制御処理装置では上記機器類の検出部から発信される諸データを収集して演算、記憶等管理に必要な処理を行い、処理したデータに基づいて店内の機器類を集中的に制御してパチンコ店の管理を行うとともに、データ制御処理装置によつて収集したデータのうち中央処理装置において必要とする情報を前記通信回線で中央処理装置に伝送し、中央処理装置では各パチンコ店のデータ制御処理装置から伝送される個々の情報を中央コンピユータにより総合的な管理を行うための情報処理を行うとともにデイスプレー装置により各パチンコ店からの情報や処理情報を可視表示させ、あるいは印字機によりプリントアウトして、中央処理装置より通信回線で連絡した各パチンコ店毎にデータ制御処理装置によつて管理されている複数のパチンコ店を統括的に総合管理するようにしたことを特徴とするパチンコ店の集中管理装置。
(別紙図面(1)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(1)
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(以下省略)